「うおおおおおおおおおん!!
嘆かわしい・・・・・
なんと嘆かわしいんだ姫様あああああああッ!!


「今度は何です?誰ですかあなたは」


「殿下は左翼にだまされているのよ〜!!」
「キャアアアアアアアアアアッ!!!
「日本には科学技術と呼べるものが無かったですと?」
「そんなの嘘ですッ!
「あわ・・・あわわ・・・・・が人語を・・・・」
「ワタシは豚ではない!」
「あなたのどこがホモサピエンスに見えますか」
「ワタシは人間です!」
「ではどうしてそんなにおぞましい顔をしてらっしゃるのでしょうか・・・・
私のように美しい女の子がいるかと思えば
「なっ・・・・・・・・・話を逸らさないで!」
「戦車が何だというのですか!
考えてみればすぐわかることでしょう!
必然的に島嶼作戦が多くなる島国日本になど、戦車など必要なかったのです!」
「フーン」
「島国日本が作った戦車と大陸国家が作った重戦車とを単純に比較するなんて言語道断!
繰り返しましょう。島国日本には戦車は無用の長物であるからこそ、まともなものを作ろうとしなかった。
決して技術がなかったから作れなかったわけではありません。
「そうなんですか?じゃあ島国イギリスはどうですか?」
「イッ・・・・イギリスは金持ちだから・・・・・」
「イギリスが大戦前に開発した戦車にマチルダ歩兵戦車というのがあります。」



歩兵戦車マチルダ2(全備重量27トン)



「この戦車は大戦のごく初期のフランス戦では、その厚い装甲のおかげでそこそこ活躍できたのですが、
北アフリカ戦が始まるとドイツ軍の88mmや機甲戦術に手ひどくやられて、1942年のエルアラメイン戦までにすべてが退役してしまいます。ハルファヤ峠での戦いで、バッハ牧師率いるわずか9台の高射砲部隊に64台のマチルダと27台の巡航戦車が破壊された話は有名ですね。」
「いわばマチルダは対独戦においては明らかなやられメカなんですが、
これが極東に送られると無敵戦車に早代わりしてしまうんです。
なんせ日本軍にはこの戦車を破壊する方法が無いんですよ。」
「大戦末期、オーストラリア軍のマチルダを日本側は九四式山砲の75ミリ徹甲弾でゼロ距離射撃をしますが、いくら命中しても擱座さえしないマチルダに日本軍陣地は散々蹂躙され、多大な犠牲を払わされてしまいました。
ただ一件だけ、日本がこの戦車を破壊できたのは、1945年バリクババンでのことで、ドイツの技術供与によって作られた少数生産の「タ弾」と呼ばれる成形炸薬弾を潜水艦で持ってきて、これには適切な射出装置が付いていなかったものですから肉弾攻撃によって、やっとこの戦車の側面装甲板に穴を開けて動きを止めることに成功したそうです。」
「イギリスが極東戦線を中古兵器の在庫処分場にしてるのもアレですが、大戦末期に至っても大戦初期の中古戦車が日本軍にとっての街道上の怪物状態であるといったような日本軍の対戦車能力の低さにはあきれ返りますね。後にも先にもマチルダ戦車を日本軍が破壊したのはこの一件だけだったといいます。」
「また東南アジアの森林地帯だとか、山がちな島嶼部では戦車は役に立たないなどという考えは幻想にしか過ぎませんよ。
戦車は陸上最強の兵器です。大戦末期のインパール作戦で、普通に戦っては全く英軍に太刀打ちできない日本軍は、基本的に夜間の強襲によって陣地を占領するのですが、翌朝になると戦車を先頭にした英印軍に殲滅されて退却し、また夜になると日本刀を振り回して陣地を襲う・・・ということが繰り返して行われました。」
「日本軍は山賊か?という疑念は別として、真昼の戦いではあっても何がしかの有効な対戦車兵器があれば、敵が来るやいなや潰走する必要はなかったはずなのです。それはたとえ技術的に日本では作るのが困難な対戦車砲、ましてや戦車の配備である必要はありません。ドイツから形成炸薬弾についての知識を教えてもらったとき、すぐにでもこれを研究、開発しておけばこれほどまでに惨めな思いはせずにすんだのに、すべては時の指導者の怠慢の産物と、その他の人々の批判精神がたりなかったせいで招いた事態なのですよ。」
「・・・・」
「山がちな島嶼部においても、同様に戦車の運用は一般に考えられているほど制限されるということはないです。
朝鮮戦争ではそう考えていたアメリカ軍は当初、不利な境遇にたたされてしまったというのは周知の事実です。」
「・・・確かに当時の日本はその国内インフラの低さから、有力な自動車産業、ひいては欧米に比類しうる機械化部隊の創設が困難だったことも事実です。その上適切な対戦車兵器の開発を最後まで怠った。貧弱な装備の日本陸軍は米英軍に対して苦戦を強いられたわ。
しかし、それは陸助限定の話!」
「マトモな戦車を開発するだけの技術力も科学力も日本には存在しなかったですと?
そんなのウソです!!単に陸軍の連中が能無しだっただけの話よ!
海軍と一緒にしないでいただきたい!」
「ましてや栄光ある大日本帝国を発展途上国呼ばわりなどと・・・・・
いけません!!姫様はなにもわかってらっしゃらない!何もです!!」
「日本人の誇りにしてアジア開放の象徴、
零式艦上戦闘機こと零戦を語らずして何が皇軍の強さと言えるのよ!」
「ア・・・アジア・・・・・







零式艦上戦闘機








「日本人なら誰もが知っているはずの、偉大な零戦の存在をアナタも知らないわけでは無いでしょう!
その性能、フォルム、全てが美しく、全てが完全だった零戦は、
歴史に残る最強のレシプロ戦闘機として名を刻んだのよッ!」
保健所に電話して引き取ってもらおうかしら」
「旧日本軍に関する悪評の裏には必ず一つの組織の関わりが確認されています。」
韓国人は日本が第二次世界大戦でヘビークラスの戦いをやりとげたこと、その中でも零戦とか大和などの艦艇とか、世界でも一線級のメカを自力で開発して大活躍させたこと、そのことをものすごくうらやましがっているのです!」
「・・・・はあ、韓国人がですか」
「そうよ!反面、それに耐え切れず、それを否定するために、必死で、随所で、それらを貶し、
はたまた「なーんだ、日本なんてたいしたことなかったじゃん」
といったイメージを社会に植えつけ
、心の平安を得ようとしているッ。
そう。あなたは悪辣な朝鮮人どもに騙されているの!
木を見て森を見ず。正に姫様の語る大日本帝国の印象は、悪いところのみを意図的に抽出された、連中の捏造したいわゆる自虐史観を鵜呑みにしてしまった物であることは疑いようがありません。」
「・・・・・・」
「雲霞の如く攻め寄せるアメリカ軍に敢然と立ちはだかった日本兵とその兵器。
多勢に無勢、適するはずも無く、それでもなお挑みかかった。
恐怖、いかばかりであった事でしょう。
最後まで折れなかった心、誇りを支えたものは一体なんだったのでしょう?
美しい我が国土。悠久の歴史、愛する人々への愛・・・
零戦はその小さな機体の中に全てを宿していた。
翼に込められた民族の祈り。
零戦が有ったからこそ搭乗員達は最後まで諦めなかった。
兵士の戦う気概を支えた一つのシンボル・・・零」
「それにしても旧軍オタクはよくしゃべりますね。下らないことを
「下らなくなどないですぞ!
結果、確かに日本は負けましたが、日本民族・・・・いや、全世界の非白人種に希望と夢を与えることに成功した大東亜戦争は、
もはや実質的には日本の勝利と言ってもよいのです!」
「・・・・・旧日本軍を崇拝すると、こういう人間のものとは思えないブタの姿になってしまうのでしょうか?」
「呪いですか!」
「いえ、魔法です。紅の豚ならぬ、青竹色の豚ですね。」
「・・・・・アレは自分でかけたのでは」
「ところでゼロ戦って・・・・」
「おおっとオオオオオオッ!!」
びくッ!
「姫様、『ゼロセン』ではありません。
『れいせん』
とお読みください。」
何がゼロですか。
日本の誇り、零式艦上戦闘機を横文字で呼称するなどというのは、売国奴のすることですぞ!」
「・・・大戦当時も、零戦の搭乗員や整備員は、米軍の"zero fighter"という呼称にならって
普通に「ゼロ戦」と呼んでいたそうですが・・・・
零戦パイロットや整備員は売国奴なんですか?」
「・・・・てっ敵性言語なのでは・・・・」
「そうですね。
しかし、当時であっても英語が完全に禁止されたというのは迷信で、一部では普通に用いられていたんですよ。」
「・・・・・・それはそうとして、何と美しい航空機なのでしょうな・・・・零戦は」






「そうでしょうか?私ゼロ戦の見た目大嫌いです。」
「は?」
「ズングリムックリした星型空冷エンジン機に汚い緑色一色で、デザインは最悪です。
せめて英米独のようにカッコイイ迷彩塗装とかできなかったのでしょうか。」











「そんなの個人の好みの問題でしょ!ワタシは好きなの!」
「真珠湾攻撃時のゼロ戦に至っては白い機体に真っ赤な日の丸ですよ?」







「それのどこが悪いのよ!」
「余りにダサすぎて映画パールハーバーでは事実無視の濃緑色のゼロ戦が出てくるぐらいですからね。」



日本人から非難轟々



「あんな史上最悪の国褥ハリウッド映画に零戦の気高さが分かってたまるもんですか!」
「そんなに酷い内容でしょうか。私はとても面白いと思いました。」
「な・・・・・・なななということを・・・・」
「事実とチョット違うとか言って、史上最低の戦争映画だとか言う方は、きっと国士気取りと軍事オタクだけですよ」
「どこが面白いっていうのよ!あんな糞映画!
イヴリンとのロマンスとか、あとレイフとダニーの乗るP-40戦闘機がとてもカッコよかったです。」
「そ・・そんな安っぽい・・・・・大体ちょっとどころじゃなくて事実を捏造しまくってんじゃないのよ!
日本軍は民間人を機銃掃射なんかしてない!」
「そうでしょうか?全くなかったわけではないですよ。」





日本機に銃撃された救急車
(赤十字のマークは事件の後に付けられたというが)




「・・・・・もういいわよ。どうでも」
「いいですか?とにかく話を元に戻すと、カラーリングなどのことはどうでもいいとして、
零戦は当時としては欧米の古臭い戦闘機よりも洗練された、精悍で美しい平面的な先進的フォルムで登場しました。
その零の近未来的フォルムがどれだけ欧米に衝撃を与えたかというと、
テレビジョンのチャンネルがダイヤル式から一気にボタン式になったような衝撃。
レコードから突然CDが現われた衝撃といってもよい。」
・・・・・
「前方からのアングルで捉えた零は低翼単葉上半角の美しさ。その美しさが性能に直結した。」
「当時の戦闘機はみんな低翼単葉じゃないですか?
ドイツのBf109なんかゼロ戦の5年も前に初飛行を遂げてますし。」





Bf109V1(1935年)




「Bf109は大戦を通じて使われ、戦後も一部の国で使用されるロングセラーです。別にゼロ戦が先進的だったとは思えませんよ。」
「とにかく零戦は最強だった
日本の誇りだ
疑う奴は非国民よ」
「・・・・・子ブタさん、最強の意味をご存知ですか?」
「アナタこそ何で零戦を悪く言いたがるのよ!」
「零戦21型は登場当時、同時期の欧米機と比較しても、なんらヒケをとらない高速機であったのは事実。
戦闘機としての戦闘能力だけを見た場合、零は高速機、強力武装、高機動、高加速、強力な急上昇、航続力、
素直な機体レスポンス、応答性。
さらに空母搭載可能。これほど戦闘力の優れた優等生は世界に類を見ない。
高性能機である零が無敵一時代を築いたのは奇跡ではなく必然だと感じる次第だ。」
「・・・速度は酷く遅く無いですか?」
「いいえ!そんなことない!
登場した当初は世界の標準機とも肩を並べられるだけの最高速度をそなえてる一流機よ!」
「また登場した当初ですか・・・」
「零戦の最初の生産型である21型の最高速度は時速533km
それに対して同時期のヨーロッパの第一線機はドイツがメッサーシュミットBf109E型の時速578km
イギリスがスピットファイアMk.Tの時速582kmとそれほど劣ったものではありません。」
「それおかしくないでしょう?1940年ごろと言ったらゼロ戦は数十機しか配備されていませんよ。
またその頃にはメッサーシュミットやスピットファイアは更なる改良を遂げて、それぞれE型からF型Mk.TからMk.Uとして配備が始まっています。」



1940年

最高速度
零戦21型 533km/h
Bf109F-2 595km/h
スピットファイアMk.U 595km/h




「ゼロ戦はその登場当時から世界の一流戦闘機に最高速度にして60km/hも劣っていたわけですね。」
「・・・・・」
「ところで、戦闘機というのは、その登場後も不断に改良され続け、大戦前や初期に開発された機体でも最高速度などの基本性能は戦争の推移とともに向上しつづけるものなんです。いわゆる名機の条件にも、改良され続けて長期間第一線に止まり続けるいうものも挙げられます。
それに対してゼロ戦のお粗末な速度性能は年代が進むとさらに各国機との差が開いていったんですよ。」
「1940年には高々60km/hの速度差だったのが、大戦中ごろの1942年になると100km/h以上
「・・・・・・」



1942年

最高速度
零戦32型 544km/h
Bf109G-6 640km/h
スピットファイアMk.\ 669km/h




「さらに大戦末期にはその差が150km/hにまで広がってしまいました」
「・・・・・!」



1944年

最高速度
零戦52型丙 541km/h
Bf109K-4 710km/h
スピットファイアMk.14 719km/h




「よくもまあ、こんな発展性の低い低速戦闘機が世界最強だなどといえますね。」
ちょっとまって!
日本機と欧米機のカタログスペックを単純に比べるのは間違っている!
欧米機は武器ナシ、弾ナシ、防弾板ナシ、燃料最低限で専用にチューンナップしたエンジンの緊急出力で計った
サバを読んだ数値を公式の数値としている!」
「・・・また根拠も大してないようなヨタ話を・・・・」
「対して日本機の速度測定状態は、弾薬を積み、燃料を満載した戦闘状態での計測ですから必然的に重量増加を招き、最高速度が比較的遅くなってしまう。なんのことはない。『日本機の速度が遅い』などという迷信はそういった計測状況の違いから来るだけの違いにしかすぎない。」
「しかるに、燃料を満載して時速700km/h近くも出る大戦機など存在しない
「・・・RAFやNASが厳密に測定した全備状態の各機の速度性能がここにあるんですが、これを見てどう思いますか?」



テンペストV (最大搭載状態)
速度 698m/h(高度6950m)


P-51D(燃料満載時計測)
最高速度 700km/h (高度7620m)


スピットファイアMk.14(燃料搭載量95%)
最高速度 719km/h (高度7800m)



「はッ・・・早ッ!
「確かに、戦前アメリカが海外に輸出した戦闘機の中には、カタログスペックと実際の性能とがかけ離れていた機体が一部にあったということは事実です。しかし、そのごく一部の例外をもって、すべての外国機が額面を下回るなどということは言えるはずもありません。戦中に自国も実戦で使用する重要な機体が、メーカー発表のものと性能が大幅に違うなどというのは大問題ですからね。」
「大体重量の変化ぐらいで速度にこれほどの差が出るわけないでしょ。
ゼロ戦の低速は、当時の日本がまともな高出力エンジンを製造できなかったことによる当然の結果であるのですよ。
当たり前のことですが、出力が高いエンジンの飛行機ほど高速が出る。
ゼロ戦の登場時のエンジン馬力は1000馬力にも満たない、たったの950馬力ですよ?」
「大戦末期になると各国とも2000馬力級のエンジンを装備していますが、一方のゼロ戦は1130馬力で頭打ちになっています。このような低性能機で、連合軍の新型戦闘機に対抗するのは事実上不可能となってしまったのは論を待たない史実でしょ。」
「・・・・」
「・・・・・フッ・・・なんにも分かってないですな。全くもって何もわかって無い!」
「速度性能が何だって言うのよ!
零戦の類稀なる空戦性能はその
格闘性能にあったの!
格闘戦!わかる?つまりドッグファイトでは無敵を誇り、
連合軍の戦闘機は零戦との格闘戦を避けたほどなの!」
「何といいましょうか・・・」
「いくら速かろうと、まっすぐにしか飛べない飛行機に戦闘機たる資格なし。
零戦のように旋回性能を極めてこそ一流の戦闘機と呼べるのよ。」
「航空機の進化の流れに逆行するようなことを言う・・・・」
「戦闘機に速度なんて無意味なの!重要なのは格闘性能よ!
実際の戦果を見てみるといいわ。大東亜戦争勃発後の緒戦では零戦は連合軍戦闘機を圧倒し、
その類稀なる格闘性能によって人類の航空史上に名を刻んだ。」
「ゼロ戦の性能云々言う前に、すこしここで航空機の発達史のおさらいをしておいたほうがよいようですね。」

「1903年、ライト兄弟が初めて有人の飛行機を空に浮かべてから、わずか十数年後の第一次世界大戦の終了までに、この戦争遂行の上で不可欠となった空の兵器は目覚しい発展を遂げました。ライト兄弟のフライヤー号のエンジン馬力はわずか12馬力で、速度は50km/h程度だったのにたいして、大戦初期の戦闘機は100km/h、終戦近くには200km/hにまで速度性能が向上しています。その後も飛行機は劇的な進化を遂げ、布で作られた機体は金属製に、主翼は複葉から単葉に、固定脚は引っ込み式に改められました。」












「30年代半ばの実験機の速度は時速400kmを超え、そしてついに1934年に時速700kmの速度の壁を破ったのが、イタリアのマッキMC.72です。その後の39年にドイツのMe209V1が時速749kmをはじき出し、以降はプロペラ機の速度性能は限界に達したため、ジェット機が実用化されていきます。」





MC.72(イタリア)





「戦闘機というものは、敵機を捕捉し、撃墜するためには少しでも高速であることが望ましいため、これらの先進的な高速化の技術は真っ先に戦闘機に投入され、30年代半ばの第一線戦闘機の最大速度は300km/hを突破、30年代末になると一流機は500kmを超え、大戦中には時速700kmに達し、末期にはドイツのジェット戦闘機Me262の時速860kmが実用機のうちでは最高速となりました。」
「完全にジェット時代に移行した戦後も基本的にこの流れは続き、
現在では日本の航空自衛隊も使っているF15が時速1650kmほどです。」















「戦闘機が高速化し続けるとともに、戦術もそれに合わせて変化していきました。飛行機の速度が百数十キロ程度しかなかった第一次世界大戦の頃の空戦術は、基本的に格闘戦ドッグファイトといって、旋回性能を生かした低速機がクルクルと旋回し、有利な射撃位置についたりして機銃弾を浴びせるといったもので、まあ早い話がジブリの紅の豚の世界ですよ。ちなみにドッグファイトという言葉は、犬が喧嘩しているときに、お互いの尻尾を噛み付き合おうとしてぐるぐる回る様子から来ています。」
「それに対して、第二次大戦の時代ともなると、戦闘機の速度は時速500kmを超えて複葉機のような旋回性能は失われ、とてもじゃないですが曲芸飛行によって敵機を撃墜するという戦法は成り立ちようがなくなります。
各国はこの問題について大いに悩みました。中には高速な単葉機よりも、小回りの聞く複葉機のほうが優れているなどと懐古趣味的なことを言う軍人も現れて、ついには複葉機を主力戦闘機として正式採用してしまう国まで現れる始末です。」
「この新時代の戦闘機の戦法について初めて明確な答えを出したのが、ベルサイユ体制から新生後間もないドイツ空軍でした。
ドイツ空軍はスペイン内乱の実戦で、高速機による一撃離脱の有効性を再確認し、2機の戦闘機が一つのペアになる編隊空戦術を編み出し、これをロッテ戦法と名づけました。」





「ヒットアンドランこと一撃離脱戦術の概要は一言で言うとエネルギー空戦です。
具体的に言いますと、位置エネルギー、つまり高度の優位を基にした急降下機動によって敵を圧倒するというもので、この空戦法で重要となる航空機の性能は速度性能はもちろんですが、他に加速性能急降下性能高高度性能上昇力といった、正に近代的な航空機の性能をフルに生かせる戦闘法だというわけです。
いわばパイロットの空戦能力というよりも、機体の性能で戦うといった次第で、この空戦法ができない戦闘機というのは、それができる戦闘機に一方的に攻撃されるハメになるのです。」
「そうして思い上がった敵機が一方的に攻撃するつもりで、旋回性能の優れる零戦にひらりとかわされ、背後から猛烈な一連射を浴びせかけられるということが現実に起こったんでしょうな。」
「・・・・・急降下に入った戦闘機は、もちろん機種にもよりますが、大体時速700〜900kmにも達する高速でもって、攻撃した後に速力を維持したまま離脱するんですよ。たかだか時速500km以下でうろちょろする零戦が、どんなに一生懸命芸をこらしてくるくる回ろうが、時速800kmで突入してくるP-38の攻撃を運良くかわせたとしても、くるっと回ってさあ攻撃しようとなっても敵機はもう地平線のかなたじゃないですか?」
「1943年、ブーゲンビル上空でゼロ戦6機が護衛する山本五十六長官の乗る一式陸攻が米軍のP-38に襲撃されたときのことです。
降下した後、速度を維持したまま急上昇して一式陸攻に突入した2機のP-38にゼロ戦は全く追いつくことができず、あっという間に長官機は火達磨となってジャングルに墜落してしまったのです。」





ロッキードP-38(米)





「・・・・しかし、格闘性能が時代遅れだとばかりにおっしゃるのはいささか極論が過ぎるようですな。
零戦の卓越した性能の一つに、高速性と格闘性能を両立させた、というのがあります。
零戦は時速500kmというある程度の高速性能と旋回性能を併せ持った奇跡の戦闘機ですぞ。
零より多少速度が速いだけの連合軍機をバッタバッタと打ち落としたという歴史的事実は、このアドヴァンテージを生かしたからに他ならない。
「そんなの勝手な妄想です。
さっきはゼロ戦はたかだか時速500km以下でうろちょろする〜などといいましたが、実はゼロ戦の飛行特性には
大きな欠陥があったため、この戦闘機は速度と格闘性能の両方を満たしていた、などということはとてもではないですがいえません。」
「それというのもゼロ戦は、高速度域での舵の応答性が最悪な戦闘機なのです。
どのくらい最悪かというと、時速290kmを越えたあたりから舵が急激に重くなり、ほとんど両手で操作しないとまともに動かせなくなります。もちろん時速500kmで格闘戦ができたなんてゼロ戦パイロットは現実にはいません。なぜならそんな速度では真っ直ぐにしか飛行できないからです。実戦ではみんな300km以下の低速度域でアクロバットしていただけなんですよ?」
「このゼロ戦の欠陥は、たとえば時速850kmの降下時でも操縦性が良好なドイツのフォッケウルフFw190などとは対照的です。『ゼロ戦は速度と格闘性能を兼ね備えた戦闘機』などというのは嘘であることがよくわかります。」





フォッケウルフFw190A(ドイツ)





「また、近代的な非行特性で重要なものにロールレイトの良し悪しというのもあります。
これは飛行中の機動性に直結する重要な性質で、ロールレイトのよい戦闘機というのは、たとえば敵の射線に入り、
攻撃を受けた場合にも容易に敵の追尾を急旋回によって振り切ることが可能で、戦闘機同士の空戦では必須の性能とも言えるんですね。この性質でもFw190は抜群の性能を持っていた反面、ゼロ戦といわず日本機全般はおそらく大戦機では最低クラスのロール性能で、パイロット泣かせだったと思います。」
「あら・・・・・」
「いいや!やっぱり格闘戦は有効な戦法だね!現実の戦いを見てみてください!
零戦の必殺技、ひねりこみは連合軍パイロットを恐怖のどん底に陥れたのよ!
零戦は第二次大戦最強の格闘戦闘機として世界の賞賛を集めたのは誇りであることなのよ!」
「・・・別に格闘戦闘機としてもゼロ戦は第二次大戦で一番優れていたわけではないですよ。
イタリアも頭の固い格闘戦闘至上主義者が幅を利かせる国の一つでしたが、そんなイタリアが新鋭機として正式採用した戦闘機にCR42というのがあります。ゼロ戦の1年前に初飛行を遂げたCR42は複葉機でした。」





CR42ファルコ(イタリア)




「格闘性能が戦闘機の優劣なら、間違いなくCR42が第二次大戦最強の戦闘機ということになるでしょう。」
「ちっ違・・・・」
「大体そんなに格闘性能が好きなら、高速になるとマトモに機動もできなくなるような中途半端な単葉機を採用せずに、
イタリアみたいに複葉機を正式採用していればよかったんじゃないですか?」
「ふっ・・・・複葉機なんて論外よッ!日本の進んだ航空テクノロジーでそんな時代遅れな複葉機なんてつくれるわけないでしょ!」
「時代遅れは日本の戦術思想でしょ」
「イタリアは技術力が無いから仕方なしに作っただけよ!日本とは違う!」
「別に当時のイタリアの航空技術はそれほど劣ってなどいませんよ。
日本は大戦を通じて、ついぞ時速700kmを超える航空機の製造が試作機でさえもできませんでしたが、イタリアは1934年にして時速709.2kmの世界記録をFAI認定で作っている国ですからね。技術がなくて作れなかったのと、技術があっても作らなかったというのは全くちがうと思います。」
「零戦は格闘戦だけでなく、一撃離脱もこなせた!複葉機なんて論外!
「確かにゼロ戦でも、急降下一撃離脱は可能ですよ。というか、戦い方をわきまえた敵に対してはそれしか有効な攻撃法が無いのが第二次大戦の空戦術というものです。坂井三郎や岩本徹三のようなゼロ戦のエースパイロットは、基本的にほとんどのスコアを一撃離脱によって稼いでいるのも、他国のエースパイロットと同じです。坂井は特に『一撃離脱ができないパイロットは、無能』とまで言っています。」
「でも、ゼロ戦は速度を出すと舵が利かなくなる以外にも、近代的な戦闘機としては致命的な欠陥がいくつもありますからね・・・・」
「致命的な欠陥とは何ですか?優れた万能機である零戦は、エースパイロットを中心に一撃離脱機としても活躍できたんでしょ?」
「それはそうなんですが、圧倒的に不利なんですよ。他国の機体と比べると。
さっきも言いましたが、位置エネルギーを運動エネルギーに変える際、つまり急降下時ですが、戦闘機の速度は一般的に時速800kmぐらいにまでなることがあるのですが、その際機体の剛性が十分に確保されていることが必須ですよね。」
「ところでゼロ戦の量産前のプロトタイプは十二試艦上戦闘機というのですが、この十二試艦戦の第二号機が飛行時間2千時間のベテラン奥山益美の搭乗で急降下テストをしたことがありました。その際、彼が高度1500m辺りから約50度の降下角度で降下を始めたところ・・・・」
「突然、飛行場上空にすさまじい大音響が鳴り響き、人々はとんでもない現象を目の当たりにします。
第二号機は翼と機体が一瞬で飛散発動機がポロリと落っこちました。他の部分は上空で粉々に粉砕されます。
そうです。零戦のプロトタイプはものの見事に空中分解したのですよ。」
空中分・・・
「滑走路の周辺に降り注ぐ無数の機体の破片は、太陽の光をキラキラと反射してそれは美しかったといいます。
機は見事に四散しパイロットは帰らぬ人となりましたが、事故原因ははっきりとはわからず、結局のところ機体の一部の補強工事でお茶を濁してゼロ戦は海軍の艦上戦闘機として制式化されるのですが・・・・」
「その後再び、アクロバット飛行をしていた二階堂中尉のゼロ戦が、急降下中時速540kmに達したとき左翼にがはしり、外板にたるみが生じました。危険を感じた中尉が機を静かに引き起こしたそのときに、突然激しい振動が襲い、一瞬彼は失神しかけました。そして意識を回復した中尉が見たものは、左右の補助翼が無くなり、右主翼の上面外板の一部も消えていた無残な自機だったのです。」
「彼は運良く墜落の危機を免れ、無事に飛行場に降り立つことができましたが、今度はその事故原因を調べるためにゼロ戦に搭乗した下川大尉が高度4000mから55度程度の角度で急降下テストを行ったとき、突然機体の一部がいくつか剥がれ落ち、そのままコントロールを失った大尉機は海上に墜落してしまいました。」
「再三にわたるゼロ戦の空中分解事故はいずれも、水平最大速度近辺で機体に異常が生じ、時速600km程度という低速で空中分解にまで至るというお粗末なものです。事故原因は風洞実験での計算間違いや、『フラッター』と呼ばれる機体の振動が日本の基礎科学力不足で解決できなかったこともあるのですが、根本はゼロ戦の機体強度の低さが大きな原因であることは明らかでした。」





最高速度近辺でゼロ戦の主翼に走る皺 NHK ETV特集「ゼロ戦に欠陥あり」より




「その結果、これらの事故をうけて量産されたゼロ戦21型の急降下制限速度は、時速629kmに制限されることになってしましました。」
「零戦の開発は三菱が担当しましたが、現代では走行中タイヤがバラバラになる程度ですが、
当時は飛行中機体がバラバラになるという、クレームも付けようの無いほど酷い
欠陥飛行機を製作していたというわけですね。」
「け・・・・けけけ欠陥飛行機
「ゼロ戦の機体剛性が他国のものと比べて情けないほど低くかった一つの原因は、日本の工業力では出力の高いエンジンをまともに作ることができないことにありました。つまりゼロ戦を設計した堀越技師は、例のごとく自国の産業水準の程度などまるで理解していない当時の軍部が提示した無理なカタログ要求を安易に満たすため、極端な機体の軽量化によってそれを実現した、というのは結構よく知られた話なんですが、その際に機体の骨組みにバカ穴と呼ばれるくり抜きを多用した結果、近代的な飛行特性を確保するだけの機体強度が得られず、低い急降下制限速度に繋がってしまったというわけです。」
「でもさすがに戦争が進行するに従い、用兵側からもこのゼロ戦の急降下性能の低さは問題になり始め、その後の改良型では、少しずつ機体強度や急降下性能などは改善されていきました。最初の21型の629kmから、32型の660km、最終的には52型の740.8kmにまで向上していきます。」
「おお・・・つまり最後には零戦は、格闘性能と急降下性能を併せ持つ万能戦闘機へと改良されたというわけですな。」
「・・・・そういうわけじゃないですよ。機体強度や翼面加重の増加は、同時にゼロ戦の格闘性能の大幅な低下も引き起こしました。
それに急降下速度制限は最終型でも時速740km程度で、たとえばドイツの主力戦闘機Bf109は戦争中期ごろのG-6型で960kmですよ。実戦では1100km出たこともあったといいますから、結局ゼロ戦はその改良の結果で中途半端な性能で落ち着いてしまったといえるでしょう。」
改悪ッ!」
「・・・・・」
「格闘性能こそ零戦の命!
それを捨てて、中途半端な性能を実現するとは、堀越は血迷ったか?!」
「何でゼロ戦オタクは格闘戦がそれほどまでに好きなんでしょうね?
この一連のゼロ戦の改良は連合軍と実際戦っていた現場の意見を反映して行われたものなんですよ?
低速旋回能力に頼った格闘戦なんて時代遅れな事に拘って、近代戦について行けなかった愚かな軍部が出した最初の仕様要求書自体が大きな間違いだったんじゃないですか?」
「12試艦上戦闘機の使用要求も、中国戦線での現場の意見を反映したものだったはず。
日本人パイロットの好みを勘案しての性能要求が、初代零戦の仕様となったのよ。」
「ドイツにハインケルHe112という戦闘機があります。Bf109との競合試験で破れ、量産されなかったこの戦闘機は、Bf109にくらべておっとりした飛行特性が複葉機時代の戦闘機乗りに好まれ、日本にも輸出されたこともあり、日本人のパイロットからは何故当機ではなく、真っ直ぐにしか飛べないBf109が制式採用されたのか?と不思議がられたことがありました。」






ハインケルHe112(独)





「軍人というのは元来保守的なもので、新しい時代の変化にはすぐに対応できないことがままあります。Bf109は急降下性能などの飛行特性や量産性などの点でHe112よりも優れていたのです。現場の意見ももちろん重要ですが、だからといって、あまりに保守的な軍人の意見を全面的にに鵜呑みにするのも考え物でしょう。行き着く先は複葉機を制式採用したイタリアということになってしまいます。」
「ほかにも、ゼロ戦の低い機体強度がもたらした、艦上戦闘機としての収納性に対する制約についても、ここで話しておきましょうか。
空母に搭載される艦載機というのは、一般的に言ってスペースをとらないように小さく翼が折りたためるのが望ましいんですね。
たとえば米海軍の艦上戦闘機はこのように・・・」

「根元から折りたためてコンパクトに運用、収納ができるのです。」



「一方、日本海軍の零戦は、鹵獲機の写真ですがこのように・・・」

はじっこだけしか申し訳程度に折りたためないのです。」
「元はゼロ戦が空母のエレベーターに引っかかってしまうため、こんな子供だましの先っちょだけの折りたたみ機構が付けられたのですが、無駄に生産性を阻害するだけのこの部分は、32型のモデルなんかでは切り取られてしまいました。」






翼端を切り取られてしまった零戦32型




「陸上機を改造しただけのイギリスの艦上戦闘機シーファイアですら根元から折りたためるのに、まったくゼロ戦ってほんとに艦上機なのか疑いたくなるぐらいですね






艦上戦闘機シーファイア(英)










「・・・・・・」
「全く随分と酷く零戦をコケにくれましたな。
零戦はその飛行性能や細かな使いまわしだけで戦闘機の寵児になったわけじゃないのですぞ?」
「零戦といえば20mm機関砲!
当時20ミリという絶大なる威力を誇る大口径砲の機関砲を装備していたのは零戦だけ!
「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」
「・・・・・」
「零式艦上戦闘機は、その優れた格闘性能と高威力20mm機関砲の重武装とで、
太平洋の空から連合軍機を駆逐し、アジアに解放をもたらしたのよッ!」
「それにしても、日本軍マニアはなぜそこまで大口径という言葉が好きなのでしょう・・・
大体20mm機関砲を最初に装備したのはゼロ戦なんかではないですよ。
1930年代前半
にしてフランスのD.500系統が20mmをエンジン下に装備した戦闘機として設計されています。
実戦での使用に関しても、スペイン内乱でHe112の一部が20mmを装備して使用しています。
どちらも日本に参考輸入されていますよ。」






ドボアチンD.510 (仏)





「それにゼロ戦の20mm航空機銃はスイス・エリコン社のライセンス生産品ですが、真珠湾の頃にはもうすでに旧式化していて、その遅い初速による弾道特性の悪さから、かなりのベテランでしか敵機に命中させるのが困難だったといいます。」
「航空用機銃の性能で重要なのは、信頼性や重量などを除けば、弾丸の初速発射速度があげられます。初速は速ければ速いほど弾道が直進して、ねらった敵機に当てやすいですが、逆に遅いと弾道が放物線を描き、新米パイロットでは命中させるのが困難となるのです。」
「また三次元空間を自由に動き回る航空戦では敵機を捕捉し、射撃できるタイミングは非常に限られたものになりがちですから、そこで重要になるのは銃の発射速度で、発射した場合にたくさんの銃弾をばら撒ければ、それだけ命中率が向上しますよね。ここでちょっと、真珠湾攻撃前後の各国の20mm機関砲のカタログスペックを見てみましょう。」




1941年各国20mm機関砲

初速 発射速度
エリコンFF(日本) 600m/s 500rpm
MG151/20(ドイツ) 800m/s 700rpm
Hispano Mk.II(イギリス) 880m/s 600rpm
ShVAK(ソ連) 860m/s 800rpm





「ゼロ戦の20mm機関砲は、もともと大型機迎撃用に搭載が決定されたものなのですが、その初速の低さからくる威力不足で、敵の4発重爆に対してはほとんど効き目がありませんでした。しかし、小型で俊敏な戦闘機に対しては命中するはずもありません。」
「おまけに携行弾数が少ないために、わずか数秒で全弾撃ちつくしてしまい、20mmを使い果たしたゼロ戦は、残りの7.7mm機銃2つ12.7mm機銃4〜6つを装備する米軍機と戦わなければならないのです。」
「とはいっても、ゼロ戦の7.7mm機銃も他国の同級の機銃に比べて別段高性能なわけではないのですから、
パイロットはかわいそうですよね・・・・・」




初速 発射速度
7.7mm 97式機銃(日本) 723m/s 900rpm
7.92mm MG17(ドイツ) 840m/s 1000rpm
7.7mm ブローニング303(イギリス) 811m/s 1200rpm





「結局のところ、坂井三郎の言うように、
何の役にもたたない20mmなんて無かったほうがよかったんじゃないですか?」
「言いがかりだ!20mm機関砲は全く無用の長物ではありませんぞ!!」
「零戦に搭載されていたエリコン機銃は、たしかドイツのメッサーシュミットBf-109も搭載していたことがあるはずです。
その際、これほどまでに酷い評価を受けることは無かったはずよ!」





Bf109E




「確かにBf109にも、ゼロ戦と同じエリコンの20mm機関砲が1940年初頭に搭載されていました。これもやはり弾道特性の悪さからすぐに小改造がなされ、その後MG151/20などに換装されていますが、ゼロ戦のエリコン20mmはメッサーシュミットのそれよりもさらに酷い性能だったのですよ。なぜなら、機体の剛性がしっかりしているBf109と違い、ゼロ戦は20mmを撃つと主翼がしなって弾道がそれてしまうのです。」
「タダでさえ遅い初速に加え、土台そのものがヤワであるという相乗効果によって、ゼロ戦20mm最低伝説が芽生えてしまったのですね。ドイツのものと日本のものとで機銃の品質が同一であったなどということも考えがたいでしょう。上に示した初速の表は、あくまでエリコン社のカタログスペック値ですからね。日本製の機銃はその工作精度の低さからよく弾づまりや、果ては筒内爆発まで頻繁に起こっていたといいますから。」
「しかしそれらの欠陥も長くは続いたわけではないでしょ?
零戦の20mmは初速750m/sに性能アップされ、99式2号銃として1943年ごろから配備が始まってる。」
「確かに、ゼロ戦の20mmは大戦後半より砲身を長くしたエリコンFFLに生産が切り替わっていきましたが、43年ごろではまだ1号の生産のほうが多いぐらいです。新しい2号銃は初速が750m/sで発射速度は450rpmに減少しています。」
「しかし重量と反動が増えた2号銃は、ゼロ戦が一連射するごとに翼がよじれるようだなどと評されていますからね。もちろん弾はあさっての方向に飛んでいきます。
下手をすれば初速のもっと低かった1号銃よりも酷いんじゃないですか?
日本軍オタクはなぜかやたらと大口径砲が大好きでたまらないようですが、
結局のところ脆い零戦に20mmを積んだのは全くの無駄ということだったんでしょうね。」
「全くろくなこと無いですよね。無闇にカタログスペックだけ欧米機に近づけようとした代償が、これらの機体の頑丈さの不足となって多方面に問題を噴出させたのです。
こんな練習機並みのヤワな機体に武装だけ施したようなボロい戦闘機で戦争になるわけがないですよ。
零戦などのフニャフニャな戦闘機は日本を滅ぼした一つの元凶といっても差し支えないぐらいです。」
「・・・・・・」
「まったく、予想通りの展開ですな。」
「なっ何がですか!・・・・今までの私の説明を聞いてて言うことはそれだけですか?」
「速度が遅かっただの、20mm砲が使い物にならなかっただとかいう戦術的な問題などというのは零戦の優秀さを脅かす要素にはなりえないということよ。零戦といえば、そう!絶大なる航続性能で太平洋の覇者となったことは日本人なら誰でも知っていることです!」
「その航続距離たるや、3,350kmにも達し、他の国にはまねのできない長距離の作戦を可能にした。」
「ところで、姫様はバトルオブブリテンという戦いをご存知ですかな?」
「英国上空の戦いでしょうか・・・・・」
「この1940年に勃発した、史上空前の航空戦といわれるイギリス本土上空戦では、ナチス空軍とイギリス空軍が文字どおり死力を尽くして戦ったわけですが、侵攻した側のドイツは1819機もの損害を出して敗退、その後に予定されていた上陸作戦は頓挫し、西ヨーロッパでのドイツの快進撃に一大転機をもたらしたという重要な航空戦です。」
「フヒッ・・・・フヒヒヒヒ・・・・」
「・・・・何なんですか」
「このときドイツ側が敗退した最も大きな原因はなんだかわかる?」
「・・・・・」
「それはドイツの主力戦闘機、Bf109Eの航続距離が足りなかったためなのよ!
航続距離の短いメッサーは、フランスの航空基地から離陸、編隊を組んで、さあいざイギリス上空へときた段階になると、滞空時間が30分しかなかった。そのために戦闘機の十分な護衛を受けられない爆撃機は、イギリスの戦闘機に蜂の巣にされ、大損害を受けた結果作戦続行が不可能になったというわけ。いわばドイツは航続距離不足で敗退した
「Bf109Eの航続距離は、たったの660km
その点、零戦はどうですか。
我が海軍の零式艦上戦闘機の航続距離は、落下増槽無しの状態でも2200kmも飛行できるのですぞ!」
「・・・・これはもちろん仮説の話だが・・・・」
「もしもドイツ空軍が装備する戦闘機が零戦だったとしたら、バトルオブブリテンはドイツの勝利に終わっていたであろうというのは定説だ。
「・・・ちょっと立ちくらみが・・・・」
「ドイツ空軍に零戦があればイギリス空軍は殲滅されていたのは間違いない!」
「だから1940年にはゼロ戦は数えるくらいしか生産されていないと・・・・」
「・・・・ああっ・・・・ワタシは零戦の高性能ぶりが恐ろしいッ!
零戦のその滞空時間たるや、6時間にも及ぶのです!
当時の日本の航空技術の高さは、あの技術先進国ドイツを超越してしまっていたのよ!」
「・・・・・まったく、どんな怪しげな仮想戦記に影響されたのか知りませんが、ゼロ戦の航続距離がただ長いからといって無邪気に喜ぶのは馬鹿げています。戦闘機の航続距離なんて、戦場の使用要求にしたがって決定されるもので、その長短などは技術力とは何の関連性もないのですよ?」
「いーや、違いますね。すべては零戦に採用された低燃費技術の賜物よ。」
「・・・・ではそのゼロ戦の低燃費技術とやらをこれから解説して差し上げましょう。それとヨーロッパの戦闘機の航続距離が短い理由も。」




中編へ続く



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参考書籍など



零式艦上戦闘機11-21型 世界の傑作機 NO. 55


零式艦上戦闘機22-63型 世界の傑作機 NO. 56


零戦 文庫版航空戦史シリーズ (1)
堀越 二郎 (著), 奥宮 正武 (著)


零戦の遺産―設計主務者が綴る名機の素顔 光人社NF文庫
堀越 二郎 (著)

零戦を設計した堀越二郎技師の零戦マンセー本


零式戦闘機 新潮文庫
吉村 昭 (著)

昭和43年刊行のトンデモ本。


大空のサムライ〈上〉死闘の果てに悔いなし 講談社プラスアルファ文庫
坂井 三郎 (著)

有名な零戦エースの戦記本


大空のサムライ〈下〉還らざる零戦隊 講談社プラスアルファ文庫
坂井 三郎 (著)


零戦撃墜王―空戦八年の記録 光人社NF文庫
岩本 徹三 (著)


撃墜王列伝―大空のエースたちの生涯 光人社NF文庫
鈴木 五郎 (著)

第一次大戦から第二次大戦までの東西の撃墜王を詳細に解説
カバー写真はリヒトホーフェン